2011/01/20

白い虎と貧しさ


いくつかの書店で「まずはこの本をを読んだほうがいい。
この国のことがよくわかるから」と勧めらた本がある。

インドで数年前にベストセラーになった小説"WHITE TIGER"

貧しい家庭に生まれ、小学校さえ卒業できずに、チャイ屋や
召使いなどとして生きる道を選ばざる終えなかった主人公が
どうやって実業家に転身したのかが皮肉たっぷりのユーモア
を交えながら語られていく物語。

この本を買い、さっそく駅で読んでいると、
見知らぬインドの青年から声をかけられた。

「気味の悪い物語だと思うだろ?...」

その時は読み始めて数ページ。彼が何を言っているのか
わからなかった。ただし今は、その言葉の意味がわかる。

この本は主人公の貧しい立場からの豊かさへの妬み、
そして貧しいこと自体への蔑みで満ち溢れている。

同じように貧しさから這い上がるサクセスストーリー
『スラムドッグ・ミリオネアー』にあった清々しさは、
この"WHITE TIGER"には微塵もない。

貧しさによって叶えられない欲望が主人公のなかに
いつも渦巻いている。

この小説は、貧しさにということがどんなものかということを
ユーモアを交えながら、教えてくれる。
貧しさは何も食べ物がない、着るものがないといった物理的な
ものだけではない。それは人の心を絶えず蝕み、時には汚れた
手段を取らせさえするもの。

度々、「貧しくても心は豊かな人はいる」という文脈で
貧しさが語られるのを聞いてきた。もちろんその意見に
反対はしないし、たしかにそういう強い心を持つ人々に
僕も出会ってきた。ただし、それは貧しさの恐ろしさを
語ることへの避けるための言い訳、もしくは貧しさの
憎悪の中にいない立場の人間だから吐ける美化された
言葉でもあるんだと思うようになった。

この小説はあくまで、フィクション。どこまで確信を
ついているかわからない。ただ大勢のインドの人々に
評価されたということは少なからず的を得たものなのだろう。

旅という贅沢ができる僕が多くの人にとって貧しさの
憎悪の対象になっているとハッとさせられ、少し怖くなった。

以上

No comments:

Post a Comment